#85 Always In My Heart

 失ってはじめて気付くような大切さは、本当の大切さじゃない。自分からそれがなくなったときに痛みを伴わない消失なんて、感傷以外の何物でもない。
 と、思っていた。

 それは自分が知らないうちに掌で溶けて消えて無くなってしまったものへの執着をなんとか切り捨てようとしていた、単なる強がりだったのだ。と気付いたのは、ずっとずっと、あとの話。

060519

#86 Guess I'll Hang My Tears Out to Dry

 自分がひどく傷ついたコトや、事実を捻じ曲げたいほど恥ずかしいコト。
 そういうものたちをぜんぶ集めて、黒い箱に詰めて蓋をして、ほんのちょっとの匂いすら漏れないように丁寧に丁寧に密封して、そうして最後に「忘れたいコト」というラベルを貼った、というわけです。
 いつかこれを宝箱だと思える日が来るなんて、そのときは思ってなかった。

060507

#87 Anniversary

 そういうことなのでしょう?
 かつて大切だった日付を、今の私はもう何とも思わなくなっている。
 これと同じように、例えば今後私があなた以外の誰かとあなたのいない場所であなたと全く関係のない特別な日をともに祝い、決して忘れたくないと刻みつけることすら、きっと私はいつか忘れる。というか、忘れた方が幸福である。大切ではなくなるということは、もっと大切なものが現れることでしか実現されないのだから、と。
 ね、あなたが言いたかったのは、そういうことなのでしょう?

060420

#88 Missing

 心にぽっかり空いた穴について考えた。
 あなたが私へと与えてくれたモノに一体どれだけの意味があっただろう。実は大した意味なんてなかったんじゃないだろうか。
 だって知識は一般的に売られている書物の中に詰まっているし、楽しい時間ならば友達だって与えてくれる。温もりなんて、およそ生きている動物の全てから伝わりうるのだから。
 だから。力無く笑いながら、もう認めよう。
 私は何もなくしていない。
 ただ、あなたを恋しく思うことを覚えてしまった。それだけの話。

060405

#89 Truth is stranger than xxx

 思うに嘘なんてものはどこにもなくて。

 携帯のバッテリーが無くなるまで切れなかった電話も、
 名前を呼べばいつだって返ってきた声も、
 意味のないことばかり喋りながら一緒に迎えてしまった朝も、
 同じ妄想に取り憑かれてることを笑いあった夜も。

 それは確かにそこに存在していた。
 たまたま今はここにないけど、それだけのこと。

060316